ちくま文学講読〈初級編〉監修者の言葉

2022年度から実施の高等学校「国語」の新学習指導要領で、高校1年生用の必履修科目である「国語総合」があらたに「現代の国語」と「言語文化」の2つに分かれることになりました。このうち「現代の国語」は評論や実用文を扱い、「言語文化」は古典および小説などの文学教材を扱うことになっています。つまり「言語文化」で古典と現代小説の両方を扱わなければならなくなったために、現代小説の頁数が従来の「国語総合」に比べ、著しく減ってしまうことになったわけです。

本書はこうした事態に対処すべく、主に1年生の授業で文学教材を補うための高校用の副読本として企画されました。編集に当たっては、これまで「定番教材」として支持されてきた珠玉の教材をリストアップし、小説10編、随想4編が厳選してあります。これによって、文学色の強い文章の魅力に数多く触れ、あらためてその魅力を堪能していただけるものと確信しています。

現在の「国語」改革においては、ともすれば「情報」「論理」「実用」といったタームが1人歩きし、「文学」をこれらと区別する傾向が強まっています。しかし、そもそも「文学」は世界の成り立ちを根本から考えていく「人文知」の根幹をなすものであり、また、小説の読解はあらたな世界観や自己とは異質な他者の存在を理解していく上で、きわめて重要な役割を果たすものです。情報化社会を生きていくためにこそ、こうした知恵や想像力が求められるわけで、本書を通し、個々の「情報」の持つ意味を自身の目で吟味し、うわべの功利的なものの見方に惑わされない、奥深い知性を身につけていっていただきたいと思います。本書がそのための強力な“援軍”になってくれることを願ってやみません。

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