源氏物語 紫式部 大塚ひかり
書かれてから千年を迎えた「源氏物語」。『カラダで感じる源氏物語』等の著作で大胆に言辞を解釈してきた大塚ひかりが、その集大成として、ついに個人全訳に挑戦! ちくま文庫全6巻で贈る、一番新しい「源氏物語」。
古典エッセイスト。1961年、神奈川県生れ、早稲田大学第一文学部日本史学専攻卒業。出版社勤務を経て、1988年、失恋体験を綴った『いつの日か別の日か─みつばちの孤独』(主婦の友社)以後、『源氏の男はみんなサイテー』『カラダで感じる源氏物語』『源氏物語』の身体測定』などの古典エッセイがある。
現代は、平安時代ととても似ている——「現代の平安化」を唱え、『源氏の男はみんなサイテー』『カラダで感じる源氏物語』『源氏物語の身体測定』等の著書において、『源氏物語』を、まさに現代に通じる物語として鋭く読み解いてきた気鋭の古典エッセイスト・大塚ひかり氏による個人全訳。
『源氏物語』には、与謝野晶子以来、数々の名訳があり、最近の逐語訳では、瀬戸内寂聴訳が完結したばかりであるが、大塚源氏は、源氏の原文に長年親しんだ訳者自身が「欲しかった逐語全訳」である。
原文を重視し、原文のリズムを極力重んじ、また「要注目」の原文はそのまま本文に取り込みつつ、「するする分かる」訳。リズムを重んじるために敬語を抑え、主語を補い、余分な言葉を補うことなく、なるべく平易な表現に、という主旨で訳した結果、人物像とその心理が粒立ち、これが千年前に書かれたものとは思えない、非常に現代的な物語なのだということがわかる訳となった。
また随所に配された「ひかりナビ」という、現代女性の視点から書かれた読みの手引きによって、読み取るべき「ツボ」がわかりやすく解説され、古典を読むときに感じる隔靴掻痒感がない。『源氏物語』とは、まるで現代人たちの物語ではないか。同じ心を持ち、同じ病理を持ち、悩み、嘆く……四世代数十年にわたる物語の中で、人々の運命はあざなえる縄のごとくにうねる。紫式部という千年前の書き手の奇跡・天才性を、存分に味わうことができる。
ストンとわかるナビ、衝撃の年譜
本文中随所に配され、(ひ)印で始まる「ひかりナビ」。引き歌の説明、登場人物の心理、その一節がどんな意味をもつか、原文ではどう表現されているか……など、感 興を殺がずに解説し、物語が頭に入りやすいように、楽しみが増幅するようにつとめた「読みの手引き」である。各巻の扉裏には、その巻に登場する人物の系図、そして、各巻の巻末付録には定番の「内裏図」「平安京図」「装束」「源氏の住居俯瞰図」「平安時代の年中行事などのほかに、本邦初、主人公の性愛の歴史を軸にすることで物語の流れが大づかみできる、訳者お手製の「光源氏のセックス年表」「薫のセックスレス年表」、また、なんで光源氏がそんなに金持ちなのかがわかる、登場人物の女君の資産ランキング「平安貴族の懐事情」なども収録。
カバーを彩るのは「源氏の色」
カバーを彩る布は、京都で五代続く「染司よしおか」当主で、植物染めに
よる日本の伝統色の再現に取り組んでいる染織家・吉岡幸雄氏製作によるもの。『源氏物語』を丹念に読み込み、本文中に出てくる装束・布について考察し、忠実に再現した(撮影・小林庸浩氏)。これが、当時の人々が身にまとっていたであろう布たち……布のリアルさと、大塚訳によって、その人物像、心の動きが立ちのぼってくる登場人物たちのリアルさが、響きあう。