文学国語

良質な小説・詩歌から、
文学を深く掘り下げる評論・随想まで、
ことばの本質を問い、人文知の扉を開く、
筑摩書房全力投球の国語教科書。

文国708/[4単位]/A5判/480ページ

文学国語

編集委員のことば

東京大学教授 安藤 宏
東京大学 安藤 宏

 「文学」を国語教育の中でどのように位置づけるべきか、従来もさまざまな議論が積み重ねられてきました。これを情操教育の一環として、言語運用能力の育成と区別する立場もありますが、筑摩書房の教科書は一貫してその逆、つまりコミュニケーション能力の育成と文学教育とを不可分のものと考える立場を取っています。

 もともと「文学」ということばは、歴史的には文字で書かれた学問の全てを指す総称であり、この語が狭い意味での言語芸術の名称として用いられるようになったのは明治も後半になってからのことでした。近年、人文科学の世界ではこうした反省からあらためてこれを広く文化全体の中で捉え直そうとする動きが一般化しており、こうした流れを踏まえた上で、本教科書もまた、旧来の狭い「文学」概念からの脱却を目ざしています。

 ことばは、人間の想像力が発動するすべての出発点です。宗教、イデオロギー、貧富の差などによって世界の分断が進む中で、さらにはネット社会固有の孤独な状況がすすむ中で、異質な他者や世界の成り立ちについて考えていく「人文知」は今日ますますその重要性を増しており、「文学」はまさにその中核をなすものです。文学教材は決して「博物館の陳列ケース」の中にある過去の文化財としてあるわけではありません。これからの現代社会を生き抜いていく上で、なくてはならぬ知恵の泉なのです。

 今回のわれわれの提案を、あるべきあらたな「国語」の姿として、積極的なご支持を頂ければこれに過ぎる幸いはありません。

本書のポイント

多様なレトリックと豊かな想像力、人間とことばの本質を掘り下げる
「文学的な文章」を、文芸作品に限定せずバラエティ豊かに採録しました。

大学入試はもちろん、未来を切り開く、多様なものの見方・考え方を示す文章を
意識的に選択しました。

教材の特徴
  1. 第一部10単元27教材(うち韻文5本)、第二部8単元21教材(うち韻文4本)と充実のラインナップ。
  2. 原則として各単元内の教材配列は易→難へ
  3. 定番の小説・詩歌教材はもちろん、「文学とは何か」について深く思考を巡らせ、議論を深めることのできる随想・評論教材まで幅広くセレクト。
  4. 生徒によってさまざまな資質・能力を引き出せる奥の深い教材を厳選。
授業を支える工夫
  1. 「第一部」「第二部」の冒頭に学びの見通しを立てるために役立つ「単元の目標」と教材ごとの「視点」を提示。
  2. 教材ごとに学びを深める「理解」「表現」を提示。
  3. 教材ごとに理解の幅を広げる知識やヒントをコンパクトにまとめたコラム「読解の窓」を掲載。
  4. 比べ読みの練習に、「参考」の文章を適宜掲載。
  5. 主体的な学びを支える「実践」を適宜掲載。

目次

第一部

第1章
ことばから広がる世界

プラスチック膜を破って

梨木香歩

コミュニケーション論

情報の彫刻

原 研哉

文学とメディア

バイリンガリズムの政治学

今福龍太

紀行文
第2章
物語との出会い

山月記

中島 敦

神様

川上弘美

参考

神様2011

川上弘美

実践

構成と展開を工夫して、変身物語を書こう

第3章
背後にあるメッセージ

実体の美と状況の美

高階秀爾

文学と芸術

メディアと倫理

和田伸一郎

文学とメディア

ラムネ氏のこと

坂口安吾

文学とメッセージ
第4章
現実を揺さぶる想像力

異なり記念日

齋藤陽道

コミュニケーション論

記号論と生のリアリティ

立川健二

言語・記号論

金繕いの景色

藤原辰史

文学と伝統
第5章
自己と向き合う

こころ

夏目漱石

フォーカス

夏目漱石と「こころ」

参考

私の個人主義

夏目漱石

第6章
過去との対話

死者の声を運ぶ小舟

小川洋子

文学論

論語――私の古典

高橋和巳

古典論

空と風と星と詩

茨木のり子

詩論
第7章
世界観を築く

未来をつくる言葉

ドミニク・チェン

文学と翻訳

建築論ノート

松山 巖

文学と建築

能 時間の様式

杉本博司

文学と古典芸能
第8章
調べとリズム

小景異情

室生犀星

サーカス

中原中也

永訣の朝

宮澤賢治

短歌

死にたまふ母

斎藤茂吉

実践

詩歌から発想を広げ、 小説を書こう

第9章
思考の道筋をたどる

化物の進化

寺田寅彦

文学と科学

文学の仕事

加藤周一

文学論
第10章
日常の裂け目

捨てない女

多和田葉子

魂込め

目取真俊

第二部

第1章
物語が生まれる場所

小説とは何か

三島由紀夫

小説論
参考

遠野物語

柳田國男

陰翳礼讃

谷崎潤一郎

文学と美学

みづの上日記

樋口一葉

近代文学
第2章
交差するドラマ

舞姫

森 鷗外

フォーカス

近代小説の誕生

安部公房

実践

「編集」 という表現方法を楽しもう

第3章
新たな視座を得る

〈うだでき〉場所の言葉

吉田文憲

文学とことば

絵画は紙幣に憧れる

椹木野衣

文学と芸術

隠れん坊の精神史

藤田省三

文学と哲学
第4章
文体がひらく世界

水仙

太宰 治

王国

津村記久子

第5章
表現を突き詰める

無常ということ

小林秀雄

文学と思想

骨とまぼろし

真木悠介

紀行文

ある〈共生〉の経験から

石原吉郎

文学と平和
第6章
詩歌という隣人

無題

吉原幸子

旅情

石垣りん

N森林公園の冬

北村太郎

俳句

第7章
小説の可能性

藤野先生

魯迅

沈黙

村上春樹

第8章
未来を問う

寛容は自らを守るために不寛容に対して不寛容になるべきか

渡辺一夫

文学と思想

チャンピオンの定義

大江健三郎

文学論
実践

創作の背景について調べよう

おすすめの教材

「死者の声を運ぶ小舟」

小川洋子

現代作家が放つ、文学の持つ「力」と「役割」を問う文章。『文学国語』を学ぶ意義にまで思いを巡らすことができます。

<第一部 第6章 過去との対話>

「未来をつくる言葉」

ドミニク・チェン

文学を学ぶとは、ことばを学ぶこと、人を学ぶことであると、筑摩書房は考えています。文学の本質を問いかける文章です。

<第一部 第7章 世界観を築く>

「寛容は自らを守るために 不寛容に対して不寛容になるべきか」

渡辺一夫

文学を通して、思考を深め、世界に広げてゆきたい。渡辺一夫のこの文章こそ、『文学国語』として読み解くにふさわしい教材です。

<第二部 第8章 未来を問う>

「捨てない女」

多和田葉子

海外でも活躍し、日本でも人気の小説家による、浮遊感あふれる小説。小説を読み解く力を深め、養います。

<第一部 第10章 日常の裂け目>

「魂込め」

目取真 俊

小説とは、社会や人間の深部を掘り下げ、心の深くに訴えるもの。そのことを実感させてくれる作品です。

<第一部 第10章 日常の裂け目>

「無題」

吉原幸子

詩歌は、近代から現代まで、幅広く採録しました。

<第二部 第6章 詩歌という隣人>

編集委員

安藤 宏
東京大学
門屋 敦
東大寺学園中・高等学校
紅野謙介
日本大学
河野龍也
東京大学
五味渕典嗣
早稲田大学
清水良典
愛知淑徳大学
関口隆一
筑波大学附属駒場中・高等学校
橘 直弥
灘中学校・高等学校
仲島ひとみ
国際基督教大学高等学校
服部徹也
東洋大学
松田顕子
立教新座中学校・高等学校
吉田 光
東京都立竹早高等学校