基礎を固める定番教材を中心に言語文化の
本質に迫るバラエティ豊かなラインナップ。
言文712/[2単位]/A5判/320ページ
編集委員のことば
教材本位――それが新学習指導要領のもとでも変わることのない私たちの方針である。一つ一つの教材を深く読み込むことこそが、国語の力を育てる核となると信じるからである。古文は、さまざまなジャンルの教材によって古典の世界の豊かさを味わうとともに、文学史の的確な把握ができるように努めた。漢文は、親しみやすい教材を多くとりあげ、日本の言語文化にとって重要な漢文の世界を身近に感じられるようにした。いずれも、「国語総合」で支持を受けてきた定番教材と単元構成を十分に生かしながら編成して、生徒が古典の言葉とじっくり向きあうところから新たな世界が開けるような教科書づくりを目指した。また、古文と漢文、古典と現代文との間にも連絡を図り、「言語文化」という科目全体への目配りも怠っていない。新学習指導要領への対応にも種々工夫を凝らしたが、教材そのものを大切にする基本を堅持しつつ、安心して使っていただける教科書になっているはずである。
いまから150年ほど前、日本は近代国家に生まれ変わったが、言葉は今よりもっとばらばらで、互いに通じ合うことがなかった。話し言葉には方言もたくさんあったし、もっと複雑だった。書き言葉では、漢文を公式の文章語にしている人もいれば、候文を日常的に使っている人もいた。そもそもまだ文字を知らない人もいた。それが夏目漱石や樋口一葉の時代であった。今の言葉に近づいてくるのは1920年頃のこと。さらに多くの人々が使いこなせるようになったのは、戦後のことなのである。言葉にはこうした錯綜の歴史がある。その歴史と文化を学ぶことを通して、私たちは言葉が変化するものだということを知る。そう、言葉はつねに変化する。最終形はまだない。だからこそ、歴史や文化を知る必要がある。目に見えない未来の言葉は、過去と現在を接続することから生まれるのである。
本書のポイント
古典(古文・漢文)は、定番教材を中心に据えて基本を重視
現代文は、言語文化の本質に迫る教材を厳選
教材の特徴
- 古文教材は、散文25本、韻文6本。漢文教材は、散文14本、韻文10本。
現代文教材は、散文7本(小説3本・随想4本)、韻文6本。 - 入門教材は丁寧に解説。(古文入門・漢文入門)
- 古典編から現代文編への橋渡しとなる「日本語の変遷」という章を置きました。
授業を支える工夫
- 古文編・漢文編・現代文編と、授業を展開しやすい三編で構成しました。
- 学びの見通しを立てるために役立つ「単元の目標」と教材ごとの「視点」を提示。
- 言語文化をよりよく理解するためのアクティブ・ラーニング例として、「実践」をすべての単元の末尾に掲載。
- 古文・漢文の理解に役立つコラムや、付録が充実。
- 付録に「装束」「調度」「中国の文化」「暦法」など、授業で使えるカラー図版を掲載。
目次
言葉の力
大岡信
古文編
- 第1章
- 古文への扉 ── 古文入門
古文を学ぶために
児のそら寝
宇治拾遺物語
古典文法の窓1
歴史的仮名遣い
大納言顕雅卿
十訓抄
古典文法の窓2
品詞の分類
絵仏師良秀
宇治拾遺物語
大江山
十訓抄
古典文法の窓3
用言の活用/音便
実践
「構成」を意識して作品への理解を深めよう
- 第2章
- 人間の普遍的な姿 ── 物語を読む
竹取物語
かぐや姫誕生/かぐや姫の昇天
伊勢物語
芥川/東下り/筒井筒/梓弓
古典文法の窓4
係り結びの法則/「ば」の用法
実践
当時の文化に注目しよう
- 第3章
- 自分という他者 ── 日記を読む
土佐日記
門出/亡き児をしのぶ/帰京
更級日記
東路の道の果て/をかしげなる猫
古典文法の窓5
助動詞
実践
一人称で語ってみよう
- 第4章
- ことばに表れる意思 ── 随想を読む(古文)
徒然草
つれづれなるままに/丹波に出雲といふ所あり
ある人、弓射ることを習ふに/名を聞くより、やがて面影は
花は盛りに
【参考】兼好法師が詞のあげつらひ(玉勝間)
方丈記
ゆく河の流れ/【参考】歎逝賦/仮の庵
古典文法の窓6
助詞
実践
筆者のものの見方を理解しよう
- 第5章
- 転換期の文体と行動 ── 軍記を読む
平家物語
木曽の最期
古典文法の窓7
敬語法
転換期の文学 ── 『平家物語』の魅力
兵藤裕己
和漢混交文と漢字仮名交じり文
実践
体験を通して古典文化の理解を深めよう
- 第6章
- 韻文の表現(一) ── 和歌・俳諧を鑑賞する
和歌
万葉集/古今和歌集/新古今和歌集
奥の細道
序/白河の関/立石寺
古典文法の窓8
和歌・俳諧の修辞
実践
鑑賞する力を磨こう
- 第7章
- 練り上げられた思考 ── 評論を読む
正徹物語
待つ恋
玉勝間
いにしへよりも後世のまされること
古典文法の窓9
まぎらわしい語の区別
実践
小論文を書いて、古文の魅力を確認しよう
読書案内(古典編)
漢文編
- 第8章
- 漢文への扉 ── 漢文入門
漢文を学ぶために
主な助字(置き字)・返読文字・再読文字
送り仮名のきまり
憲法十七条
日本書紀
実践
「書き下し」という手法で、ことばの構造を考えよう
- 第9章
- 漢語の特色 ── 故事成語を読む
守株
韓非子
推敲
唐詩紀事
借虎威
戦国策
漁夫之利
戦国策
塞翁馬
淮南子
実践
ことばが創られる過程に触れよう
- 第10章
- 言動に表れる人間の本質――史伝を読む
管鮑之交
十八史略
刺客荊軻
十八史略
死諸葛走生仲達
十八史略
那須宗高
日本外史
【参考】那須与一(平家物語)
実践
記録から人物像を具体的に把握しよう
- 第11章
- 韻文の表現(二) ── 唐詩を翻案する
登鸛鵲楼
王之渙
鹿柴
王維
秋風引
劉禹錫
江雪
柳宗元
涼州詞
王翰
望廬山瀑布
李白
江南春
杜牧
漢詩のきまり1
過故人荘
孟浩然
登岳陽楼
杜甫
香炉峰下新卜山居草堂初成偶題東壁
白居易
漢詩のきまり2
【参考】雪のいと高う降りたるを(枕草子)
実践
翻案を通じて、自分の思いを伝えよう
- 第12章
- 読みつがれることば ── 中国古典思想を読む
論語
孔子の説く「知」と「政」
老子
老子の説く「知」と「政」
朝三暮四(二編)
列子・荘子
雑説
唐宋八家文読本 韓愈
実践
表現の特徴を読み取ろう
現代文編
- 第13章
- 日本語の変遷 ── 近代語の成立を知る
近代語の成立
余が言文一致の由来
二葉亭四迷
実践
「話しことば」と「書きことば」の違いを意識してみよう
- 第14章
- 想像力がひらく世界 ── 小説を読む
羅生門
芥川龍之介
【参考】羅城門の上層に登りて死人を見る盗人の語(今昔物語集)
夢十夜
夏目漱石
【参考】胡蝶之夢 荘子
待ち伏せ
ティム・オブライエン 村上春樹 訳
【参考】Ambush(抜粋)
Tim O'Brien
実践
原典と小説を読み比べて、表現の違いについて考えてみよう
- 第15章
- 多彩な表現とイメージ ── 随想を読む(現代)
なぜ日本語で書くのか
リービ英雄
虹の雌雄
蜂飼 耳
失われた両腕
清岡卓行
物語る声を求めて
津島佑子
実践
近現代の文章にはどのようなジャンルがあるのか調べよう
- 第16章
- 韻文の表現(三) ── 詩歌を作る
小諸なる古城のほとり
島崎藤村
竹
萩原朔太郎
樹下の二人
高村光太郎
二十億光年の孤独
谷川俊太郎
崖
石垣りん
I was born
吉野 弘
短歌/俳句
実践
詩歌を通して、表現力を磨こう
読書案内(現代文編)
付録(古典常識/装束/乗り物/住居・調度/中国の文化/暦法/古典文法要覧/古語の理解/日本文学史/中国文化史/主な漢文句法)
おすすめの教材
古文編
「徒然草(つれづれなるままに・丹波に出雲といふ所あり)」
随想単元では、古典文法を整理するのに最適な『徒然草』を中心に掲載しました。
〈第4章 ことばに表れる意思 随想を読む(古文)〉より
漢文編
「漢文を学ぶために」
導入の章では、漢文を学ぶ意義や訓読のきまりについて、丁寧に解説しました。
〈第8章 漢文への扉 漢文入門〉より
現代文編
「羅生門」
定番教材は、新カリキュラムになってもしっかり押さえています。
〈第14章 想像力がひらく世界 小説を読む〉より
内容見本
編集委員
- 安藤 宏
- 東京大学
- 井島正博
- 東京大学
- 大橋賢一
- 北海道教育大学旭川校
- 紅野謙介
- 日本大学
- 五味渕典嗣
- 早稲田大学
- 坂口浩一
- 東京都立小山台高等学校
- 清水良典
- 愛知淑徳大学
- 関口隆一
- 筑波大学付属駒場中・高等学校
- 高田祐彦
- 青山学院大学
- 橘 直弥
- 灘中学校・高等学校
- 千野浩一
- 筑波大学附属駒場中・高等学校
- 仲島ひとみ
- 国際基督教大学高等学校
- 三上英司
- 山形大学
- 吉田 光
- 東京都立竹早高等学校
- 吉田幹生
- 成蹊大学