古典探求

古典が培う普遍的なことばの
力強さと繊細さに目を開かせる、
「探究」の名にふさわしい
伝統と革新の古典教材。

古探715・716[4単位]/A5判/318ページ・192ページ

古典探求

編集委員のことば

青山学院大学教授 高田祐彦
青山学院大学 高田祐彦(古文編)

 古典が私たちにとって意義を持つのは、現在とは異なるその独自性と、現在にも深くつながってくる普遍性のゆえである。古典学習においては、何よりもこの両面を意識することが重要になる。そのためには、古典のことばそのものの力を感受しつつ、作品世界の投げかけるものに深く思考をめぐらすことができるような良質の教材が不可欠となろう。「古典探究」は教科名こそ新しいが、基本的な枠組みとしてはこれまでの筑摩書房版『古典B』と大きく変わるところはなく、名称どおり一段と深く古典の世界を「探究」するものと捉え、従来支持を受けてきた定番教材や構成を十分に生かしながら、さらなる掘り下げをおこなった。その一方、意欲的に新しい教材も加えることによって、古典「探究」にふさわしい幅広さも獲得できるよう、種々工夫してみた。これまでも、筑摩書房編集委員会では、単なる古文の学習にとどまらず、日本古典の世界を深く広く把握できるような教科書作りをおこなってきたが、そうした革新の伝統を受け継ぎながら、生徒たちが豊かな古典の世界に分け入る良質の手引きを作ることができたと確信している。

山形大学 三上英司
山形大学 三上英司(漢文編)

 揺るがないことばに触れる機会を作りたい、『古典探究』「漢文編」の作成に携わった者一同の思いは、ここにあります。目前の要求に右往左往する度合いが増加する現代社会で、自らの精神的安定を確保して豊かな人生を送るためには、確固たる自我を構築しなければなりません。二千年を超える時代の変化にも流されず、現代に普遍的な真理を伝えることばたちは、自己を形成する途上にある高校生にとって、自らを映し出す明鏡となり、自らの航路を確認する灯台ともなります。古典文学の役割が現代以上に重要性を持った時代は、おそらくこれまでなかったでしょう。

 本教科書では、高校生の方々の学びが自覚的に進むように「単元の目標」の項で、具体的にコンピテンシーベースの学習目標を明示しました。そして、目標達成のために各単元に配置した教材群は、奇を衒うことなく、高い評価の定まった「古典中の古典」を選びました。学習者の皆さんが、変転激しい社会でこそ価値を増す揺るがぬことばの力に触れ、自らの感性を広げ、思考力を高め、効果的な表現力を磨く機会として、本『古典探究』「漢文編」を活用してくださることを切望しております。

本書のポイント

古典を学ぶにあたって必須の教材を柱とし、
さらに探究を深める工夫を凝らしました。

生徒の興味関心を広げ、先生方の教材選択の幅を広げるために、
豊富な教材数を収録しました。

教材の特徴
  1. 使いやすい古文編・漢文編の分冊構成
  2. 古文編は第一部〈9単元・散文49教材・和歌38首・俳諧12句〉、第二部〈10単元・散文41教材〉
  3. 漢文編は第一部〈7単元・散文20教材・漢詩12首〉、第二部〈7単元・散文24教材・漢詩8首〉と充実のラインナップ。
授業を支える工夫
  1. 「第一部」「第二部」の冒頭に学びの見通しを立てるために役立つ「単元の目標」と教材ごとの「視点」を提示。
  2. 教材ごとに学びを深める「理解」「表現」を提示。
  3. 比べ読みの練習に、「参考」の文章を適宜掲載。
  4. 主体的な学びを支える「実践」を適宜掲載。

目次

古典探究(古文編)

第一部

第1章
生き生きと描かれた人々

宇治拾遺物語 袴垂、保昌にあふこと/猟師、仏を射ること

古今著聞集 刑部卿敦兼の北の方

第2章
歌に思いを託す

伊勢物語
初冠/月やあらぬ/行く蛍/狩りの使ひ/渚の院/小野の雪/とみの文/つひにゆく

大和物語 姨捨/鹿の声

第3章
豊かな感受性、深まる思考

枕草子
春は、あけぼの/野分のまたの日こそ/文ことばなめき人こそ/世の中になほいと心憂きものは/すさまじきもの/中納言参りたまひて/二月つごもりごろに

第4章
人と人が織りなす世界

堤中納言物語 虫めづる姫君

落窪物語 落窪の君

源氏物語 光源氏の誕生/飽かぬ別れ/廃院の怪/若紫の君

第5章
体験を語る

更級日記 継母との別れ/源氏の五十余巻

蜻蛉日記 嘆きつつ/道綱鷹を放つ

第6章
人と社会を見つめる

徒然草
大事を思ひ立たむ人は/世に語り伝ふること/筑紫に、なにがしの押領使など/これも仁和寺の法師/九月二十日のころ/久しく隔たりて会ひたる人の

方丈記 安元の大火/養和の飢饉

第7章
歴史を語る

大鏡 雲林院にて/花山院の出家/公任、三船の誉れ/南の院の競射

平家物語 忠度の都落ち/能登殿の最期

太平記 千早城の戦い

第8章
身体とことば

風姿花伝 二十四、五

難波土産 虚実皮膜の間

謡曲 忠度

実践

芸能の中に生きる古典文学を味わおう

第9章
定型の力

万葉の歌

王朝の歌

中世の歌

近世の句

おらが春 愛児さと

第二部

第1章
市井の人々の姿

今昔物語集 鷲にさらわれた赤子/賀茂の祭りを見物する翁

第2章
宮廷社会に生きる

枕草子 里にまかでたるに/上にさぶらふ御猫は

第3章
長編の魅力

源氏物語
車争ひ/心づくしの秋/母子の別離/暁の雪/萩のうは露/霧の中のかいま見/髪の香

鈴木日出男 『源氏物語』の虚構

第4章
自己を語る

紫式部日記 土御門殿の秋/和泉式部と清少納言

和泉式部日記 夢よりもはかなき世の中を

建礼門院右京大夫集 なべて世の

十六夜日記 関の藤川

第5章
文学を論じる

古今和歌集 やまとうたは/六歌仙

俊頼髄脳 連歌

無名抄 おもて歌

毎月抄 心と詞

無名草子 紫式部

第6章
歴史を紡ぐ

大鏡 菅公配流/宣耀殿の女御/中宮安子の嫉妬/肝試し/道長、栄華への第一歩

増鏡 後鳥羽院/隠岐配流

第7章
新たな表現を模索する

野ざらし紀行 千里に旅立ちて

去来抄 行く春を/岩鼻や

いそのはな 北寿老仙をいたむ

鶉衣 奈良団扇

第8章
近世の社会と人間

西鶴諸国ばなし 忍び扇の長歌

雨月物語 浅茅が宿

第9章
本質を探る

三冊子 不易流行

玉勝間 師の説になづまざること

源氏物語玉の小櫛 もののあはれ論

第10章
文学の生まれる場所

古事記 倭建命

参考

日本武尊の死(日本書紀)

実践

二つの伝承を読み比べて、表現の違いについて考えよう

古典探究(漢文編)

第一部

第1章
創成と典故

呂氏春秋 知音

荘子 曳尾於塗中

戦国策 先従隗始

第2章
生き方の表明

屈原 漁父辞

陶淵明集 桃花源記

李白 春夜宴桃李園序

第3章
韻文の表現

李白 独坐敬亭山

李商隠 登楽遊原

王維 九月九日憶山東兄弟

王昌齢 芙蓉楼送辛漸

張継 楓橋夜泊

王績 野望

杜甫 旅夜書懐

白居易 八月十五夜、禁中独直、対月憶元九

陸游 遊山西村

菅原道真 聞旅雁

新井白石 即事

夏目漱石 無題

第4章
言動の記録

史記 天道是邪、非邪/鴻門之会/四面楚歌

近古史談 稲葉一徹

第5章
物語の創造

捜神記 鶴之報恩/売鬼

西京雑記 王昭君

参考

王昭君( 李白)/ 王昭君( 大江朝綱)/ 王昭君をよめる( 赤染衛門)

実践

同じテーマの作品を比較し、それぞれの特徴を理解しよう

第6章
説得の技法

韓愈 師説

柳宗元 捕蛇者説

周敦頤 愛蓮説

第7章
読み継がれる思想

論語 

孟子 人無有不善/四端

荀子 性悪

第二部

第1章
評価する視点

世説新語 断腸

荘子・淮南子 蟷螂の斧

列子 愚公移山

第2章
主張と文体

詩経 詩経大序

参考

古今和歌集真名序

実践

文学論を比較し、共通点や相違点を論述しよう

曹丕 論文

陶淵明 五柳先生伝

蘇軾 前赤壁賦

第3章
韻文の伝承

詩経 桃夭

武帝 秋風辞

楽府詩集 薤露

陶淵明 飲酒 其五

王維 送別

柳宗元 漁翁

杜甫 石壕吏

白居易 長恨歌

第4章
言動の真意

史記 怒髪上衝冠/刎頸之交/国士無双

日本外史 信玄何在

第5章
物語の展開

太平広記 離魂記

本事詩 人面桃花

第6章
心情の表出

諸葛亮 前出師表

白氏文集 与微之書

王安石 傷仲永

第7章
思想の展開

老子 無之用/柔之勝剛

荘子 混沌/無用之用

韓非子 守業/嬰逆鱗

墨子 兼愛

参考

墨子 足責

興膳宏 言と黙

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編集委員

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