論理国語

重厚な定番から、最新のテーマや注目の著者まで、
精選した評論をそろえ、難関大学の入試にも
対応する「論理国語」の最高峰。

論国710/[4単位]/A5判/448ページ

論理国語

編集委員のことば

日本大学教授 紅野謙介
日本大学 紅野謙介

 私たちは、子どものころから、感想を述べよとか、意見を出しなさいとか、くりかえし指示されてきました。しかし、ぽつりぽつりとようやく言葉を絞り出すと、もっと分かりやすくとか、明確にとか注文をつけられたりします。大人になると、もっとそういう場面が増えてきます。ある商品について、それがいかに素晴らしく、美容と健康によくて、地球に配慮して作られているかとか、このプロジェクトを実現するといかに人類に貢献し、持続可能な社会を生み出せるかを説明してたくさん予算を獲得するとか、そういう説得の戦術に大人は頭を悩ませています。

 そのとき効果を発揮するのが、論理とレトリックです。とりわけ論理的に言葉を繰り出すことを目指したい。でも、ほんとうに完ぺきな論理というのはありうるのでしょうか。言葉は論理的にはなることができても、純粋な論理そのものにはなれません。議論で相手を徹底して打ち負かすと、負けた側には不快な感情のしこりが残ります。

 では、どうしたら社会で役に立つ「論理国語」ができあがるのでしょうか。それにはまず相手に納得してもらう言葉の使い方を学ぶことです。そのためには相手がどのような人なのか、どのような思いを抱いているかを想像することが必要です。他人ですから、真に分かることはむずかしい。言葉を繰り出し、相手の言葉や反応を引き出すことによって、少しずつ違いが分かるようになれたらうれしい。「論理国語」はこうして最終的には対話の言葉に向かいます。書き手と読み手が、話し手と聞き手がその役割を交互に切り替えながら、さまざまな観点から人間を、社会や自然をどうとらえ、どのように生きていくかを対話していくのです。

本書のポイント

論理的な思考を学ぶとともに、
ことばと人間の本質を深く探究する文章を豊富に採録。

大学入試にも対応する鋭い視点や抽象度の高い思考を身につける、
質量ともに最高峰の評論をそろえました。

教材の特徴
  1. 第一部9単元26教材、第二部8単元23教材と充実のラインナップ。
  2. 原則として各単元内の教材配列は易→難へ
  3. 長く読み継がれる名評論から、最新のテーマ、さらに翻訳評論や近代の評論など、筆者、時代、テーマすべてにわたってバラエティ豊かな教材。
  4. 教室や生徒によってさまざまな資質・能力を引き出せる奥の深い教材を厳選。
授業を支える工夫
  1. 「第一部」「第二部」の冒頭に学びの見通しを立てるために役立つ「単元の目標」と教材ごとの「視点」を提示。
  2. 教材ごとに学びの目標を明確化する「課題」と、理解を深める「構成」「読解」、主体的な学びを支える「言語活動」を提示。
  3. 教材ごとに評論に用いられることばを身につける「キーワード」を掲載。
  4. 主体的な学びを支える「実践」を適宜掲載。
  5. 「論理的思考」を身につけるにあたって必要な知識を示したコラムを適宜掲載。
  6. 「言語活動」で小説などとの関連付けを適宜提示。

目次

第一部

第1章
架橋することば

アイオワの玉葱

長田 弘

言語論

一〇〇パーセントは正しくない科学

更科 功

論理学

物語るという欲望

内田 樹

物語論

評論入門 一

第2章
日常の中の論点

ファッションの現象学

河野哲也

ファッション論

地図の想像力

若林幹夫

情報論

本当は怖い「前提」の話

川添 愛

論理学

評論入門 二

第3章
<私>のいる場所

近代の成立――遠近法

橋爪大三郎

近代論

沖縄戦を聞く

岸 政彦

社会学

数字化される世界

オリヴィエ・レイ

統計論

論証の作法

実践

実践多様な文章に触れよう

第4章
変貌する時代、変貌する人間

人新世における人間

吉川浩満

社会論

現代日本の開化

夏目漱石

近代論

変貌する聖女

川島慶子

ジェンダー論
第5章
歴史に向き合う

異時代人の目

若桑みどり

歴史論

荘子

湯川秀樹

古典論

日本の社会は農業社会か

網野善彦

歴史論
羅針盤

古典に探る論理

第6章
世界を視る位置

ファンタジー・ワールドの誕生

今福龍太

文化人類学

生物の作る環境

日高敏隆

生物学

貧困は自己責任なのか

湯浅 誠

貧困論

データの読み方

第7章
<伝統>を見つめ直す

模倣と「なぞり」

尼ヶ崎彬

身体論

桜が創った「日本」

佐藤俊樹

歴史論

清光館哀史

柳田國男

民俗学
実践

レポートを書こう

第8章
現代という課題

男の絆、女たちの沈黙

尹 雄大

ジェンダー論

トリアージ社会

船木 亨

社会論

権力とは何か

杉田 敦

政治思想論
第9章
<私>をひらくために

ビッグデータ時代の「生」の技法

柴田邦臣

テクノロジー論

「である」ことと「する」こと

丸山眞男

政治思想論
実践

資料や情報を吟味して、自分の考えにつなげよう

第二部

第1章
多様性のほうへ

ピジンという生き方

管 啓次郎

文化論

「自然を守る」ということ

森岡正博

環境論

虚ろなまなざし

岡 真理

社会論
第2章
抽象から具体へ

物語と歴史のあいだ

野家啓一

歴史論

貨幣共同体

岩井克人

経済論

ぼくらの民主主義なんだぜ

高橋源一郎

政治思想論
実践

自分の経験や考えを効果的に書いてみよう

第3章
可視化する力

つながりと秩序

北田暁大

現代社会論

真実の百面相

大森荘蔵

認識論

死の恐怖について

E・キューブラー=ロス

死生学
第4章
語りと世界

ことばへの問い

熊野純彦

言語論

物語としての自己

野口裕二

心理学

ポピュリズムとは何か

森本あんり

政治思想論
羅針盤

物語の中の論理

第5章
「当たり前」を疑う

思考の誕生

蓮實重彥

思想論

絵画の二十世紀

前田英樹

芸術論

日本文化私観

坂口安吾

美学
第6章
「近代」を再読する

主義は広大なるべき事

福沢諭吉

啓蒙思想

自由の本説

中江兆民

自由論

何のための「自由」か

仲正昌樹

自由論
羅針盤

先人の文章から学ぶ

実践

複数の主張を比較してみよう

第7章
記号がつくる世界

ものとこと

木村 敏

認識論

「病気」の向こう側

田中祐理子

医学

過剰性と希少性

佐伯啓思

贈与論
第8章
よみがえる問い

記憶の満天

西谷 修

時間論・認識論

戦争と平和についての考察

中井久夫

戦争論
実践

論文を読んで、これまで行われてきた研究をまとめよう

おすすめの教材

「一〇〇パーセントは正しくない科学」

更科 功

論理的思考を身につけるために必要な知識とともに、生徒の興味関心を引き出す魅力的なテーマや文章を採録しました。

<第一部 第1章 架橋することば>

「人新世における人間」

吉川浩満

今注目の著者による、最新の評論テーマもしっかりフォロー。

<第一部 第4章 変貌する時代、変貌する人間>

「日本の社会は農業社会か」

網野善彦

歴史の新しい知見を発見する喜びと、新しさを理解してもらうことの難しさ。「論理」を受け取る側の姿勢を鋭く突いて、「論理国語」の授業に深みを与えます。

<第一部 第5章 歴史に向き合う>

「ポピュリズムとは何か」

森本あんり

生徒たちが生き抜いていかなければならない本質を、最新の評論とともに学びます。

<第二部 第4章 語りと世界>

「本当は怖い「前提」の話」

川添 愛

「論理的な思考を身につける」とは、たんなるテクニックを得ることではなく、一見論理的に思える議論の土台を疑う意識を養うこと。議論の背景に危うい「前提」が隠されていないかどうかを吟味する、論理的思考の根幹を育てます。

<第一部 第2章 日常の中の論点>

編集委員

安藤 宏
東京大学
門屋 敦
東大寺学園中・高等学校
紅野謙介
日本大学
河野龍也
東京大学
五味渕典嗣
早稲田大学
清水良典
愛知淑徳大学
関口隆一
筑波大学附属駒場中・高等学校
橘 直弥
灘中学校・高等学校
仲島ひとみ
国際基督教大学高等学校
服部徹也
東洋大学
松田顕子
立教新座中学校・高等学校
吉田 光
東京都立竹早高等学校