文学、はじまりの愉しみ ちくま日本文学 全30巻
装本:安野光雅 編集協力:安野光雅・池内紀・井上ひさし・鶴見俊輔・森毅
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人と待ち合わせるとき、これからは「ちくま日本文学」をしのばせて行ってください。文学の別世界は、知らぬ間に心を豊かにする。青年の薬です。外見でなく心の中を装うのです。
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手品師は帽子からハトやウサギをとりだしてくる。私たちも、いまや立派な手品師だ。ポケットから次々と、文学が現れる! しかもこちらの手品には、タネも仕掛けもないのだから、なおのこと不思議だ。
- よい作品は宝石のようなもの、いつ見ても飽きず、時が経っても腐ることがない。そういった作品を集めて「文学全集」という名の紐に通すと、これは一環の首飾り。読者よ、どうぞこの首飾りをそっと心にかけていただきたい。そのときのあなたの美しさは、もう筆舌につくしがたい。
- ポケットに本を一冊いれて旅に出る、野原を歩く、町のどこかにすわって読む、というのはたのしいことだ。十代なかばだったが、一冊の長編小説をしゃがんだまま読んでしまったことがあり、眼をあげた時に日の光がかわっていたことを思いだす。私にとってひとつの幸福だった。
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いま文学は、飾るものではない。たのしんで、消費してしまうもの。
だから、文庫。