選書の目録を眺めていていやでも気づかされたのは、本を読みだしておよそ半世紀、それでも私にはまだ探ったことのない主題がいっぱいあるということだ。科学の世界もきっとそうだろうけれど、知ったことよりも未だ知りえていないことのほうがはるかに多い。というか、問題だなどと思ってもみなかったことが無数にある。だから教養とは広い知識をもつことだなどとは口が裂けても言えない。つくづくそう思う。
教養にはいろんな定義がありえようが、私がいまいちばん気に入っているのは、内藤正典さん(イスラム地域研究者)のツイッターでのこんなつぶやきだ。《教養って、行き詰まっているときに、どこか思わぬ方角から、光が差し込んでくる、その光の源だと思う》。教養のこの定義、知識を蓄えるとか視野を拡げるとかいった効用を説かず、思いもしないときに自分が助けられる、そんな恵みとして捉えているところが清々しい。なによりも物欲しげでないところがいい。
大澤聡ほか『教養主義のリハビリテーション』(2018年刊)より ISBN: 978-4-480-01666-9