一冊の本が未知への扉となって、読み手を新しい世界に連れていくことがあります。みなさんもこれまでに、本の世界に深く潜りこんで、知らない学校の教室で親友を見つけたり、コンピュータの中で怪盗と戦ったり、人間が動物と話せた太古の世界で暮らしたりしたことがあるかもしれません。私たちが日々の生活に戻った後も、物語の世界で出会った彼らの息づかいを確かに感じられるのも、よくあることです。 そういう読書の楽しみは、物語を読む時にだけ訪れるものではありません。私たちの暮らす世界についての事実や考えを書いた本にも、読書の楽しみは存在します。本書では、物語ではないそのような文章を広く「ノンフィクション」と呼んでいます。そこには、人間と話せる犬や魔法使いは(今のところ)出てきませんが、同じように不思議と驚きに満ちた「物語」が隠れています。身近な植物の素晴らしい仕組み、一人では何もできないロボットの魅力、大災害に見舞われた時の肉親の死……。これらの「物語」を旅するうちに、私たちはやはりそこに深く潜りこんで、動植物について、人間について、社会のあり方について、以前とは違う角度から深く出会い直すことができます。そして、その経験によって、今いる世界の見え方や感じ方がまるで変わってしまうことすらあるのです。 この本は、ノンフィクションを読む楽しみに出会ってほしいと、中学生以上の若い読者を主な読み手に想定して作られました。特に高校生になると、国語の教科書には「評論」と呼ばれるノンフィクションが多く掲載されますが、言葉の難しさもあってか、敬遠する人も多いようです。でも、思えば物語だって、私たちは幼い頃に読み聞かせをしてもらったり、自分で多くの物語の中から選んだりしながら、お気に入りの一冊を見つけ、親しくなったのでした。ノンフィクションにも、そういう出会いが必要です。 この本は、その出会いの場になることを願って編まれました。教科書の評論が苦手な方も、まずはこの本をどこからでも読んでみてください。また、コラムとして、ノンフィクションを読む楽しみを広げる提案もいくつか紹介しているので、参考にしてもらえると嬉しく思います。 すべての本がそうであるように、この本も、読み手になるというあなたの選択によって、初めて一冊の本として完成します。どのページも、未知の世界への扉となってあなたの手に開かれるのを、今か今かと待っているのです。 |
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