2011年5月9日(月)午後5時30分から、第27回太宰治賞(筑摩書房・三鷹市共同主催)の選考委員会が、三鷹市「みたか井心亭(せいしんてい)」で開かれ、選考委員四氏(加藤典洋、荒川洋治、小川洋子、三浦しをん)による厳正な選考の結果、以下のように受賞作が決定しましたので、お知らせいたします。
第27回太宰治賞受賞作
「会えなかった人」 由井 鮎彦
【あらすじ】
花火大会の日。旗笙子は、マンションの12Fで花火を見る約束をした恋人の真崎兼作を待っている。しかし真崎から、今日は行けないと電話が入る。
真崎の元には、昔の街並みの記憶を共有し、爛れた火傷の跡をもつ園井さゆりや、真崎の店で求めた商品が火を噴いたとクレームする鏑木隼人などが近付いてくる。鏑木の電話の後は、真崎の周りでボヤが起きるのだった。
そして、ふたたび花火大会の日、真崎は祭りの人波に鏑木の後を追っている。旗は、自分と真崎の関係において園井の存在が濃くなっていると、不安に駆られる。そして待つのではなく真崎の元に向かうことを決断する。しかし、到着した真崎の店で火事に巻き込まれ、半身に火傷を負うのであった。
著者略歴
由井鮎彦(ゆい・あゆひこ)
東京都在住。
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第27回太宰治賞贈呈式は2011年6月15日、東京會舘にて行われ、
受賞者には、記念品及び賞金100万円が贈られました。
【贈呈式レポート】
6月15日(水)、東京丸の内の東京會舘で第27回太宰治賞(筑摩書房・三鷹市共同主催)の贈呈式が行われました。
三鷹市の清原慶子市長がまず主催者挨拶を行いました。太宰治賞のかつての受賞者で、また選考委員でもあった故・吉村昭氏には、この度の東日本大震災を警告するかのような「三陸海岸大津波」というすばらしい著書があったことを挙げ、そのような公の存在である立派な作家となることを期待すると述べました。続いて、筑摩書房の菊池明郎社長が、震災が一段落したとき人はみな本を求めたエピソードを述べ、あらためて本の大切さを自覚した、今後とも太宰賞はじめ出版活動に意欲的に取り組む、と決意を述べました。
そして、選考委員を代表して加藤典洋氏による選考過程と選評の発表がありました。
今回の選考会は、かつてないほど議論に長い時間が費やされた。中でも圧倒的に今回の受賞作である「会えなかった人」について語り合った。そしてそれは、これだけ議論をさせる魅力があるということだろう、ということで「会えなかった人」が受賞作に選ばれた。一人称と三人称が混在し、時間はリニアには流れず、エピソードが微妙に重なり連関し、その意味することをいろいろ考えさせられたが、結局「よくわからない」。そこが面白い。ぜひみなさんご自身で作品を読み味わっていただきたい、と述べました。
そして、表彰状、正賞および副賞授与のあとに、由井鮎彦氏が、以下のように受賞の挨拶をしました。
作品が「わからない」というのは、私にとって現実もそのように「わからない」ものであるからで、それがリアルだからである。受賞してあらためて思ったのは、この作品はベケットの「ゴドーを待ちながら」への反歌であり返歌であること。今後とも「わからない」作品を書き続けてゆきたい。
そして、津島園子さんより受賞者への花束贈呈が行われ、荒川洋治氏による乾杯の音頭で、パーティへと移りました。
*選評と受賞作、それに最終候補作品は『太宰賞2011』にて読むことが出来ます。