第29回
2013/05/08
2013年5月8日(水)午後5時30分から、第29回太宰治賞(筑摩書房・三鷹市共同主催)の選考委員会が、三鷹市「みたか井心亭(せいしんてい)」で開かれ、選考委員四氏(加藤典洋、小川洋子、荒川洋治、三浦しをん)による厳正な選考の結果、以下のように受賞作が決定しましたので、お知らせいたします。
第29回太宰治賞受賞作
「さようなら、オレンジ」KSイワキ
【あらすじ】
内戦のつづくアフリカから、難民としてオーストラリアの田舎町に流れてきたサリマ。母語の読み書きすらままならない彼女は、二人の息子を育てながら精肉作業場で働く一方で、英語学校に通いはじめる。そこには、自分の夢をあきらめ夫について渡豪した日本人女性「ハリネズミ」ほか、さまざまなクラスメートたちとの出会いが待っていた。
月日がたち生活が軌道にのりはじめたころ、都会へと逃げた夫から、息子たちを引き取りたいと連絡が入る。別離の前日、サリマは息子の学校からの依頼で、アフリカの故郷について子供たちに紹介することになった。友人ハリネズミが用意してくれた客観的な資料の数々。しかしサリマは、やっと使えるようになった英語で、自分の生まれ育った場所について、稚拙だが力強い作文を発表するのだった。
人種的・言語的な差別をうける中で、生まれてくる友情と絆。女性たちが支えあいながら、やがて自分の足で逞しく各々の道へと踏みだしていく。物語の底流では、母語で書く/母語以外で書くとはどういうことか問われ続ける。主旋律となる物語と書簡・メールが、交互に進行するシャープな構成で、淡々と、しかしダイナミックに描かれる大河ドラマ。
著者略歴
KSイワキ(けーえす・いわき)
大阪府出身 オーストラリア、ヴィクトリア州在住
大学卒業後、単身渡豪。SW TAFE
ヴィジュアルアート科 ディプロマ修了。社内業務翻訳業経験ののち、結婚。在豪二十年。