2022年5月11日(水)、第38回太宰治賞(筑摩書房・三鷹市共同主催)の最終選考が実施され、選考委員四氏(荒川洋治、奥泉光、中島京子、津村記久子)による厳正な選考の結果、以下のように受賞作が決定しましたので、お知らせいたします。
第38回太宰治賞受賞作
「棕櫚を燃やす」野々井 透
【あらすじ】
なにかが父に巣くって、父の体をゆっくりと壊してゆく――。三十四歳の春野と、五歳年下の妹・澄香と父は、三人で暮らしている。「水越しにぼやけた地上をみる」ように他人と距離をとって生きる春野と、何事にも納得したい澄香、すべてをさもありなんと受け入れる父は、唯一の心地よい関係を育ててきた。その父の体内に何かが棲み、余命一年であるという。春野と澄香は毎日をあまさず暮らそうと約束する。
父と浴びる春の陽射し、玄関に脱ぎ捨てられた父の靴下、明け方の高速道路のドライブ、三人で囲むすき焼き鍋……。穏やかな日々の一方で、膨張し姿形を変え、「ごめんね」が増えていく父を春野は疎ましくも感じ、むるむるとしたものが体をめぐる。あまさず暮らすとはどういうことだろうか。
過ぎていく日の愛おしさ、どうしようもなく変わってしまう関係とその戸惑い。喪失へと向かう日々を、繊細に美しく描き出す。
野々井 透(ののい・とう)
東京都出身。
1979年生まれ、42歳。
なお、贈呈式は6月17日(金)午後6時から如水会館で開催され、受賞者には記念品および賞金100万円が当日贈呈されます。
(新型コロナウイルスの影響を考慮し、今回は規模を縮小して開催致します。例年開催されていた贈呈式後の記念パーティーは中止致します。新型コロナウイルス感染拡大の状況によって、贈呈式の開催を延期・中止する可能性もあります)