文章に即して古典を読む
『竹取物語』冒頭を読む(その2)
●「髪上げ」と「裳着」の意味育てて三月ばかりでこの児は、「よきほどなる人」(『精選国語総合 古典編 改訂版』23頁8行目/『国語総合 改訂版』236頁8行目)となり、「髪上げ」と「裳着」を行う。「髪上げ」と「裳着」は女子の成人式である、と注などでは説明されている。成人式といっても、今とは意味が違う。現在の成人は二〇歳であり、それは社会的にも肉体的にも大人になったと認められることである。選挙権が与えられ、酒やタバコもOKとなる。もちろんこの時代の成人には選挙権もなければ、酒やタバコの許可が与えられるわけでもない。何よりもこの時代の成人式の意味は、一人前の女性として扱われるということにあったであろう。言い換えれば、成人式を経ることは結婚の資格を持つことと考えてよいだろう。 ここで「髪上げ」と「裳着」の儀式がなされることは、この児が女性として一人前になり、結婚の資格を持つことを意味している。ということは、この後には必然的に結婚に関わる話が展開されると予測できる。つまり、「髪上げ」と「裳着」は、求婚譚(結婚譚)への発展を示唆するものと読めてくる。 さらに「髪上げ」や「裳着」は、女子の成人式とはいえ、当時のすべての女子が「髪上げ」や「裳着」をしたわけでもないであろう。「裳」について、私が使用している教科書では「平安時代以降、成人した女性が身につけた正装。袴の上につけ後方から腰の下に垂らす。」とある。その横には十二単を着た女性の腰の辺りに裳が描かれた絵が載っている。これを見る限り、「裳着」は平安時代の女性一般というよりも、平安貴族の女性の成人の儀式であったことがうかがえる。 この後には「帳の内よりも出ださず」(『精選国語総合 古典編 改訂版』23頁10行目/『国語総合 改訂版』236頁10行目)とあり、「この児」が、貴族の娘として扱われていることをいっそう裏付けている。 翁は、「この子を見つけて後に竹取るに、節を隔てて、よごとに、黄金ある竹を見つくること重なり」(『精選国語総合 古典編 改訂版』23頁1行目/『国語総合 改訂版』236頁1行目)、「やうやう豊かに」なってゆく。そして「この児」は「三月ばかりになるほどに、よきほどなる人にな」る。不思議なことが連続する。そしてその不思議なことから「よきほどなる人になりぬれば、髪上げなどとかくして髪上げさせ、裳着す。」へとつながっていくのである。児の発見→黄金の発見→裕福→平安貴族の生活へ、と翁の暮らしは変化していくのである。
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