文章に即して古典を読む
『竹取物語』冒頭を読む(その2)
●名づけの意味──「なよ竹のかぐや姫とつけつ」『竹取物語』で名前が登場するのは、翁に続いて二人目が「かぐや姫」である。その箇所は次のように語られている。 翁、竹を取ること、久しくなりぬ。勢ひ猛の者になりにけり。この子いと大きになりぬれば、名を、御室戸斎部の秋田を呼びてつけさす。秋田、なよ竹のかぐや姫とつけつ。 ここで注意したいのは二つの点である。一つは「かぐや姫」という名前の登場である。そしてもう一つは、前述の「髪上げ」「裳着」が、なぜわけて語られているのかという点である。 もちろん「かぐや姫」という名前が付けられるまで、呼び名がなかったわけではないだろう。何らかの呼び名が存在したはずである。しかし、その名前は示されない。「髪上げ」「裳着」を終えたこの時点で、初めて「かぐや姫」という名付けがされるのである。それは、「翁の物語」から「かぐや姫の物語」への発展を意味しているのではないか。『竹取物語』は「翁の物語」としてはじまり、ここにおいて「かぐや姫の物語」へと移行していく。そのことを示しているのが名づけの儀式ではないだろうか。 「髪上げさせ、裳着す。帳の内よりも出ださず、いつき養ふ。」(『精選国語総合 古典編 改訂版』23頁10行目/『国語総合 改訂版』236頁10行目)の主語は翁であり、その後も「翁、心地悪しく苦しき時も、この子を見れば苦しきこともやみぬ。腹立たしきことも慰みけり。」(『精選国語総合 古典編 改訂版』23頁14行目/『国語総合 改訂版』236頁14行目)と翁を主体として語られている。「この児」の発見が翁の生活をどう変えたか(しかしそこでは媼は出ていない)が語られるのである。 そして次の段は「翁、竹を取ること、久しくなりぬ。勢ひ猛の者になりにけり。」(『精選国語総合 古典編 改訂版』24頁2行目/『国語総合 改訂版』237頁2行目)とはじまり、いよいよ名づけへとなる。名づけの後の広めの儀式は次のように語られている。 このほど、三日、うち上げ遊ぶ。よろづの遊びをぞしける。男はうけきらはず呼び集へて、いとかしこく遊ぶ。世界の男、貴なるも、賎しきも、「いかで、このかぐや姫を得てしがな、見てしがな。」と、音に聞き、めでて惑ふ。 ここにきてはじめて話題の中心がかぐや姫となるのである。「髪上げ」「裳着」そして名付けは、かぐや姫を中心とした結婚(求婚)譚のはじまりを予想させる。
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