尾立要子
( おりゅう・ようこ )尾立 要子(おりゅう・ようこ):1965年生まれ。東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒業。博報堂勤務の後、神戸大学大学院法学研究科博士課程単位取得退学。博士(京都女子大学)。大阪公立大学客員研究員を経て、現在尚美学園大学総合政策学部非常勤教員。専攻はフランスの海外領土政策。著書『周辺からの共和主義――「天国に一番近い島」の現在』(大阪公立大学出版会、2024年)など。
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現代カリブの最重要知識人セゼールは、『帰郷ノート』(1947)で「ニグロ」の語から「ネグリチュード」概念を創出し、植民地主義を批判。一躍世界的な詩人としての評価を確立した。政治家としても半世紀にわたり市長と国会議員を兼任し、詩と政治の2つの営みによってマルティニークがフランスの「共和国」理念に基づく「都市(シテ)」となることを目指した。セゼールを、彼と共振した人々の歩みとともに、公文書資料やセゼール自身へのインタビューをもとに描き出す、日本で初めての画期的評伝。
はじめに――エメ・セゼールとは
序章 複数言語を生きること
1 言語から見たカリブ海
2 クレオール語
第1章 黒人市長の誕生
1 パリの名門校に記念碑
2 マルティニークにおける幼少時代からパリ時代(1913~1939)
3 帰郷した詩人
4 フランス領カリブにおける社会構造
5 詩人が政治家になるとき
第2章 アメリカとアフリカの結節点――セゼールの詩とニグロの問いかけ
1 文学活動、「ニグロ」の声に形
2 足枷を解かれた文体
3 ニグロからネグリチュードへ
4 発展するネグリチュード文学運動
5 海外フランスの成り立ちとマルティニーク小史
第3章 政治家セゼールへ
1 若き政治家の課題
2 反体制、あるいは植民地主義批判
3 植民地神話解体――『植民地主義論』の出版
4 「我々自身であるときが来た」――共産党からの離脱
5 マルティニーク進歩党の結成
6 職業政治家、あるいはネイションとしての自治を求める試み
第4章 演劇と脱植民地化
1 詩集から戯曲へ
2 『クリストフ王の悲劇』
3 『コンゴのある季節』
4 『あるテンペスト』
5 ポストコロニアル
6 セゼールはなぜフランス語で書いたのか
第5章 社会党政権下でのマルティニーク
1 マルティニーク進歩党の「自治」構想と文化活動
2 ミッテランの大統領選出
3 分権化法案と右派の抵抗
4 分権化の成果と「要求するセゼール」
5 EC統合の進行と海外県
6 ネグリチュード演説
7 ミッテラン第二大統領期(1988~1995)
8 詩人=政治家セゼールの軌跡
9 周辺的リアリズム――21世紀のマルティニークでのレファレンダム
第6章 トビラ法の成立――人道に対する罪としての黒人奴隷制
1 忘れようとしてきた刻印
2 「人道に対する罪」と黒人奴隷制?
3 法制化への転換点――1998年の奴隷制廃止記念日
4 議会におけるトビラ法の成立
5 トビラ法の実施と海外県出身者(ドミアン)
第7章 庶民から見たアンティルとフランス本土
1 フランス本土への組織的移住政策
2 本土のアンティル人コミュニティ
3 変わる意識
第8章 21世紀に響くセゼールのメッセージ
1 文化遺産になった「詩」
2 賠償をめぐって
第9章 強力な友愛――共和制とセゼール
1 1946年――海外県法案を提案するセゼール
2 セゼールの自由・平等・友愛――2006年インタビュー
3 セゼールの政治思想――周辺からの共和主義
おわりに
付 セゼールへのインタビュー
あとがき
参考文献
エメ・セゼール関連年表
インタビュー・面会者リスト
人名索引