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ちくま新書

昭和史の決定的瞬間

定価

836

(10%税込)
ISBN

978-4-480-06157-7

Cコード

0221

整理番号

457

2004/02/05

判型

新書判

ページ数

224

解説

内容紹介

民政党議員だった斎藤隆夫の「粛軍演説」は、軍部批判・戦争批判の演説として有名である。つまり、輸出依存の資本家を支持層に持つ民政党は、一貫して平和を重視していたが、本来は平和勢力であるべき労働者の社会改良の要求には冷淡だった。その結果、「戦争か平和か」という争点は「市場原理派か福祉重視か」という対立と交錯しながら、昭和11・12年の分岐点になだれ込んでいく。従来の通説である「一五年戦争史観」を越えて、「戦前」を新たな視点から見直す。

目次

プロローグ―「昭和」の二つの危機
第1章 反乱は総選挙の直後に起こった(前史としてのエリートの二極分裂
総選挙と二・二六事件)
第2章 陸軍も大きな抵抗にあっていた(特別議会での攻防
「保守党」と「急進党」の「人民戦線」)
第3章 平和重視の内閣は「流産」した(広田弘毅内閣の退陣(昭和一二年一月)
宇垣一成の組閣失敗 ほか)
第4章 対立を深める軍拡と生活改善(「狭義国防論」の登場
「広義国防論」の反撃)
第5章 戦争は民主勢力の躍進の中で起こった(「民主主義」と「戦争」
「戦争」と「民主主義」 ほか)
エピローグ―後世の常識と歴史の真実

著作者プロフィール

坂野潤治

( ばんの・じゅんじ )

1937年神奈川県生まれ。東京大学文学部国史学科卒業。同大学院人文科学研究科博士課程中退。東京大学社会科学研究所教授、千葉大学法経学部教授を経て、現在は東京大学名誉教授。専攻は、日本近代政治史。著書に『昭和史の決定的瞬間』『未完の明治維新』(以上、ちくま新書)、『近代日本の国家構想』(岩波現代文庫、吉野作造賞受賞)、『日本憲政史』(東京大学出版会、角川源義賞受賞)、『明治国家の終焉』(ちくま学芸文庫)、『近代日本の出発』(新人物文庫)、『自由と平等の昭和史』(講談社選書メチエ)、『近代日本政治史』(岩波書店)、『明治デモクラシー』(岩波新書)、『明治憲法体制の確立』(東京大学出版会)など多数。

この本への感想

日中戦争の半年前まで、日本国内ではある程度の言論の自由があり、しかもデモクラシーが国民の「時代常識」(戸坂潤)であったことを論証したもの。2・26事件を機として国内がファシズム一色となり、その流れのまま戦争に突入していった、とする一般的なイメージとは逆に、戦争が勃発したことにより、結構いい線までいっていた自由主義、社民主義が一気に圧殺されるに至ったことを示す(「『民主主義』は『戦争』を阻止できなかったが、『戦争』は『民主主義』を抑圧できたのである」)。
 著者は、陸軍が反議会主義的な選挙制度改正案を発表した直後の1936年11月から、宇垣一成内閣が流産する37年1月末までを「決定的瞬間」と見ているようである。この間、労農派マルクス主義者・大森義太郎を主導者とする日本版「人民戦線」構想が総合誌等で大っぴらに論じられていた。他方で社会大衆党は、反戦・反ファッショよりも反資本主義・反既成政党にこだわり、軍拡と社会下層の生活改善とを結びつける「広義国防論」を唱え、人民戦線ではなく陸軍に接近していた。浜田国松が仕掛けた「割腹問答」により広田弘毅内閣が総辞職すると、人民戦線派の期待を担い、政友会・民政党の既成二大政党の協調の上に立つ宇垣内閣が発足直前にまでいたる。
しかし、石原莞爾ら陸軍中堅層の抵抗と、前年の2・26事件の後遺症による内相・湯浅倉平の逡巡により、陸相を得ることができず流産にいたる・・・。というのが宇垣内閣流産事件の経緯である(その後、林銑十郎内閣が成立、3月末の「食い逃げ解散」、総選挙での民政党と社大党の勝利、近衛文麿内閣の成立、7月7日盧溝橋事件・・・という経過をたどる)。
 民主化の頂点で日中戦争が起こり、一気に国内の自由が圧殺されるに至った、という仮説は非常に興味深い。躍進する社大党と陸軍の間に溝ができ始めていた(と著者は見る)ことを考えると、盧溝橋事件の銃撃は陸軍の自作自演では・・・という気もしてくる。当時この事件は局地的「事変」と見られていて、戸坂潤や中野重治らを除き、誰も7年におよぶ全面戦争に発展するとは危惧していなかったというのも、同時代の歴史的位置付けを把握することの難しさを思い知らされる。
 他、美濃部達吉の議会軽視的な「円卓巨頭会議」構想、斎藤隆夫が社会経済政策では財界の代弁者であったこと、ソ連も含めた独裁国家が、経済効率において議会主義国に劣ると看破していた自由主義的評論家・馬場恒吾など、いろいろ興味深かった。

読書ノート

さん
update: 2007/09/26

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