中澤穣
( なかざわ・みのる )中澤 穣(なかざわ・みのる):1977年生まれ。一橋大大学院修了後、2003年に中日新聞社に入社。同社東京本社(東京新聞)社会部、外報部などを経て、2014年から1年間、北京語言大学で語学研修。2018年より4年間、北京特派員として中国の政治や社会を取材。現在、政治部記者。
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中国に女権主義(フェミニズム)ブームがやってきた。「なぜこの社会は不公正で不条理なのか」。自らの境遇に不満を募らせる女性たちの問いに、女権主義が答えを与えたからだ。「天の半分を支える」といわれてきた中国の女性だが、建国以来、中国共産党最高指導部にその姿はない。改革開放政策は男女格差を広げ、出産や結婚から女性は遠ざかる。女性への暴力や人身売買の報道もあとを絶たない。女権主義を手に入れた女性たちに対し、政権は神経をとがらせる。MeToo運動の最中に現地取材をした中国特派員が見た、抵抗と弾圧の最前線。
第一章 中国に女権ブームがやってきた
1 女権主義ブーム
「特別な年」となった二〇二二年/「言葉」を探す若い世代/上野千鶴子ブームの背景/対談相手が批判を浴びる
2 事件が映す性差別
唐山事件/「男対女」で展開した論争/「鉄鎖女」事件の衝撃/判決への批判/続く隠蔽と宣伝
3 人身売買と彩礼
一発殴られれば/北朝鮮女性も被害に/注目集める「彩礼」/彩礼の高額化/男女間の対立の火種にも
4 経済力を盾に
中国側の完全勝利/情報統制/説明要求/飛び火
第二章 なぜ「天の半分を支える」女性を恐れるのか
1 中国共産党の女性活用
習政権下で進む女性排除/「女性は天の半分を支える」?/市場経済化がもたらした変化/習政権下での後退
2 法制度の改善
相次いだ法改正/星星のために/冷ややかな受け止め
3 MeToo運動と中国政府
運動前夜/NGOと一九九五年世界女性会議/二〇一八年、MeToo運動の波が中国に/当初は好意的な対応も/強まる監視/「女権の声」の削除
4 女権主義は「境外勢力」
西側の価値観を排斥/一カ月で二二件の告発/黄雪琴さんの逮捕/横のつながりを断つ
第三章 MeToo運動が中国に残したもの
1 弦子さんの訴え
第一回審理/二〇一四年六月九日/「我慢するしかない」/警察への届け出/被害届取り下げを求められる/MeToo運動を受けて/否定する朱軍氏
2 なぜ司法の救済はなかったのか
一審敗訴/原告に不利な審理/立証のハードル/原告敗訴は妥当か/情報統制
3「性被害がなくならない限り、MeTooもなくならない」
中国のMeTooは敗北だったのか/問われる司法/告発対象者の偏り/進歩か、行き止まりか
第四章 中国社会に響く不協和音
1 急速な少子化とちぐはぐな対応
日本より速い少子化/一人っ子政策からの転換/少子化への焦り/政策変更の皮肉な副作用/補助金の直接支給は広がらず/反発生む教育費の負担軽減策/ちぐはぐな少子化対策
2 結婚に背を向ける
婚姻数も激減/結婚も子育てもハードルが高い/伝統的価値に背を向ける若者/不服従としての不婚不育
3 分断――女と男、女と女
「国男」と「女拳」/「女拳」に偏った規制/結婚する女性にも批判の矛先/女権主義者内部の対立/対立を煽る中国の特殊事情
第五章 変革の新たな担い手
1 女性たちの白紙運動
「コロナへの勝利」/「封鎖はいらない自由がほしい」/白紙に何も書かれてなくても/十数都市に広がった抗議行動/長期拘束七人のうち六人が女性/女権主義の影響/脱中心化する運動/海外との相互作用/変革の担い手
2 「民運」とMeToo運動
天安門の英雄への告発/台湾でのMeToo運動/民運の「おっさん臭さ」/民運への信頼と支持の喪失/身近な正義
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