日高敏隆
( ひだか・としたか )1930年生まれ。東京大学理学部動物学科卒。東京農工大学教授、京都大学教授、滋賀県立大学学長、総合地球環境学研究所所長を歴任。理学博士。本文中に引用したものの他、『人間についての寓話』(平凡社)、『動物はなぜ動物になったか』(玉川大学出版部)、『帰ってきたファーブル──現代生物学方法論』(講談社)、『ぼくにとっての学校──教育という幻想』(講談社)、『春の数えかた』(新潮社)など多数の著書・訳書がある。
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ある日、大きな画用紙に簡単な猫の絵を描いて飼い猫に見せた。するとすぐに絵に寄ってクンクンと匂いを嗅ぎだした。二次元の絵に本物と同じ反応を示す猫の不思議な認識。しかしそれは決して不思議なことではなく、動物が知覚している世界がその動物にとっての現実である。本書では、それら生物の世界観を紹介しつつ人間の認識論にも踏み込む。「全生物の上に君臨する客観的環境など存在しない。我々は認識できたものを積み上げて、それぞれに世界を構築しているだけだ」。著者はその認識を「イリュージョン」と名づけた。動物行動学の権威が著した、目からウロコが落ちる一冊。
解説:村上陽一郎
序 章 イリュージョンとは何か
人間が見ている世界と他の動物が見ている世界/イリュージョンの意味/イリュージョンの持つ働き
第1章 ネコたちの認識する世界
陶器のネコはどう見えたか/描かれたネコへの反応/ネコたちの世界
第2章 ユクスキュルの環世界
ダニの世界/動物にとって意味のあるものとは?/一つの部屋がどう見えるか/動物たちは何のために?
第3章 木の葉と光
アゲハチョウはどこを飛ぶか/モンシロチョウの場合/イリュージョンによって構築される世界
第4章 音と動きがつくる世界
たくさんのハリネズミの死/動物にとっての環世界/親ドリとヒナの関係/動物たちの環世界はイリュージョンが作る
第5章 人間の古典におけるイリュージョン
古典をどう読むか/『万葉集』にも聖書にもチョウはいない/想像上の動物/イリュージョンを裏付ける論理
第6章 状況によるイリュージョンのちがい
性的に動機づけられたチョウの行動/意味をもつ存在の変化/カブトムシのオスとメス
第7章 科学に裏づけられたイリュージョン
ファーブルの発見/昆虫の性フェロモン研究/アメリカシロヒトリでの実験
第8章 知覚の枠と世界
モンシロチョウは赤が見えない/人間が永遠に実感できない色/環世界は動物の種によって異なる/接触科学感覚とは?/超音波を認知できない人間/生きるとはどういうことか
第9章 人間の概念的イリュージョン
概念によって構築される世界/見えないものを見る/文化の変遷/イリュージョンも変化する
第10章 輪廻の「思想」
死の発見/輪廻説の誕生/遺伝子を残したい/目的は種族維持ではない/遺伝子の利己性とは/生きた意味を残す
第11章 イリュージョンなしに世界は認識できない
時代や文化によって変わる/変化したのは人間の認識とイリュージョン/個体の適応度/メスはどんなオスをえらぶのか/進化には何の目的も計画もない/植物に世界はあるか
終 章 われわれは何をしているのか
動物のイリュージョンと知覚の枠/色眼鏡なしにものを見ることはできない/われわれは真理に近づいたのか
あとがき
解説(村上陽一郎)
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