日本のナショナリズムを批判する在日韓国人の研究者は数多くいるが、韓国のナショナリズムを批判する論者はなぜこんなに少ないのだろうと思っていた。だいたい、韓国のナショナリズムを不問に付して、日本のことだけを批判するのはフェアじゃないと思えたからだ。これではかえって、日本の保守サイドから批判を呼び込んでしまい、むしろよくないのではないかと思う。本書は日本と韓国のナショナリズムを同じ地平から批判する画期的なものだ。もちろん、著者が韓国に対する厳しい態度をとらなければ日本社会に訴えても聞いてもらえないという状況も考慮しなければならないが。マイノリティを追い詰めているマジョリティの無意識を批判する本だが、読んでいる私も筆者を「韓国批判をしなければ日本ナショナリズム批判ができない状況」に追い込んでいるのではないかと思わずにはいられない。読み手の読書力と倫理観が試される深い本だといえよう。
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内容紹介
日韓両国でのフィールドワークと文献渉猟により、マイノリティを“抱きしめて”切り取る、“無意識で善意のナショナリズム”の暴力を明らかにする。
目次
序章 「複数のアイデンティティ」を持つということ(無意識で善意のナショナリズム
ハーフとは差別用語か ほか)
第1章 日本の「内地」という政治(ナイチャーということばから考える
「内地」という無意識 ほか)
第2章 韓国ナショナリズムと「故地意識」―民族主義とナショナリズムのあいだにあるもの(「反民族法」から考える韓国
韓国のナショナリズムと民族主義 ほか)
第3章 日韓のマイノリティから見た「切り取り」の様相(在韓華僑とは誰か
八重山台湾系移民とは誰か ほか)
終章 名前とアイデンティティ(小笠原で考えたこと
まとめ―あなたも「複数のアイデンティティを持つもの」である)
この本への感想
明快な論理で、分かりやすくマジョリティの無意識の暴力を描く様は圧巻でした。マジョリティはマイノリティのことを知らなくても生きていけるが、マイノリティはマジョリティのことを知らなくては生きていけないという展開は、今まで何故このような視点からの議論がなかったのだろうという気持ちにさせられるほど、説得力があるものです。たくさんの人に読んでもらいたい論考です。
大学院は出たけれど
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