『英語のハノン』は、英語を指導する立場の方にも多く使っていただいています。私自身も英会話講師から英語を教えるキャリアをスタートし、現在は大学で教えています。「どうすればよい授業ができるか」というのは永遠の悩みで、日々一喜一憂しながら授業に臨んでいます。大学で教え始めた頃は、「英語をたくさん話す授業はできたが、もっと文法をしっかり導入すればよかった」と悩み、軌道修正をすれば今度は「丁寧に文法解説をしたのはよかったが、話す時間をもっと確保するべきだった」と悩む、といった始末でした。昨年、非常勤で勤務していたある大学で『英語のハノン 初級』を教科書として採用したのですが、その授業では「英語を話す時間を十分とりつつ文法をしっかり指導する」授業展開ができた、という手ごたえを感じました。そこで今回は、教育現場での『英語のハノン』使用例を紹介してみたいと思います。基本的な文法からしっかり指導する必要があるクラスでは、「ハノン」の口頭練習に入る前に「書く」プロセスを入れるとよいでしょう。

【『英語のハノン 初級』授業活用例】

I 文法解説 ── 簡潔に。

ターゲットとなる文法を解説する。

II 書く練習 ── テンポよく。

＜Consecutive Drillの場合＞

1. 生徒はKey Sentenceをノートに書き写す（Key Sentence以外は隠しておく）。

2. 先生の指示に従って、生徒は文を書き換える。

3. 書き終えた時点で、先生は答えの文を見るよう指示。簡潔に解説を加えながら答え合わせ。

4. 上記2.と3.を繰り返しドリルの最後まで進む。

＜Step Drillの場合＞

1. 生徒は一文目をノートに書き写す（二文目以降は隠しておく）。

2. 先生の指示に従って、生徒は文を書き換える。

3. 書き終えた時点で、先生は答えの文を見るよう指示。簡単な解説を加えながら答え合わせ。

4. 次の問題に進む。

5. 上記1. 2. 3. 4.を繰り返しドリルの最後まで進む。

III 話す練習 ── グルーヴ感を出しながら。

1. 音声のパートは先生が担当し、クラス全体で練習。一回目は開本、二回目は閉本で行う。先生は、「ハノン」の音声のように少し追い立て気味に言うよう心がけ、グルーヴ感を出す。

2. 生徒同士でペアを組み、交替で先生役と生徒役になり練習。生徒役は閉本で行う。

　私が行っていたのは上記のような授業展開です。『英語のハノン』のみ使っていたわけではなく、45分程度を「ハノン」に充てていました。時間の関係で「話す」練習までできない時は、〈自宅で音声を使って口頭トレーニング→次の授業できちんと言えるか確認〉という流れで行ってもよいと思います。もちろん、「ハノン」のあとに応用会話練習を入れるとなおよいでしょう（機会があれば、「パターンプラクティス」→「応用会話練習」の流れのテキストを作りたいと考えています）。

　このスタイルの授業を通してあらためて気づいたのは、「Yes/No疑問文を作ることができない英語学習者が非常に多い」ということでした。たとえば「youが主語の疑問文だから文頭にDoをつければよい」となんとなく判断し、動詞がbe動詞なのか一般動詞なのか、時制は何なのかを確認しないまま無条件に文頭にDoをつけYes/No疑問文を作る、といったような例が散見されたのです。「ハノン」で場合分けをした練習をして初めて「Yes/No疑問文を作る難しさに気づいた」という意見も聞かれました。

　「話す」授業も「文法をしっかり定着させる」授業も諦めない。『英語のハノン』で是非そんな授業づくりをしてみてはいかがでしょうか。