浪速のスーパーティーチャー守本の授業実践例

はじめに……国語教科書は面白い

はじめに……国語教科書は面白い

3 教材と生徒を解きほぐす ……「なぜ、富士に頼んだ?」
(『富嶽百景』太宰治)

 『待ち伏せ』(ティム・オブライエン)の主人公は、敵を待ち伏せしていた時、若い兵隊に手榴弾を投げることなど思いもつかなかったのに、彼の意志を越えて身体が勝手に動き、手榴弾を投げて兵隊を殺してしまいました。主人公はそれについて思い悩みます。それがこの小説のヒミツです。そして、この主人公は「なぜ?なぜ?」と自分を責め続けます。心と身体の関係の不思議に絡め取られている主人公の心情を解きほぐすためには、やはり、「身体論」というキーワードが必要なのでしょう。

 『富嶽百景』(太宰治)の主人公の心情も多くの要素が絡み合っています。遊女の慰安旅行に出会った時、不幸な遊女に対して無力な主人公がしたことは、これを「富士に頼もう。」でした。なぜ、富士に丸投げしたのか。そこには、太宰の屈折した心情があります。近代論・芸術論に加え、東京への思い(津軽への思い)や、シニカルな視点などが絡み合っています。それを解きほぐし、整理することで作品に迫っていくということも教室では大事なことだと思います。

 また、実は、解きほぐす必要があるのは教材ばかりでなく、生徒自身についても解きほぐす必要があるのです。

 『異文化としての子ども』(本田和子)にあるように、子どもには独自の世界があります。独自の世界観・世界解釈があるわけで、その子どもと大人との間にいる生徒たちには、子どもとも違った彼ら独自のコードがあり、それが教材の素直な解きほぐしから生徒たちを遠ざけていることが多いのです。合理的な発想をする時もあれば、ある時は勧善懲悪的な発想を見せるし、神秘性に傾倒する時もあります。それらを意識せず、それらに生徒が絡め取られていたりすると、詩や小説に感情移入もしづらいし、身体論や記号論にいたっては、遙か遠い世界の出来事になってしまいます。

 この生徒たちが何にとらわれているのかということは、多くの教材をともに学ぶ中で見えてきます。私たちは、教材を解きほぐしながら、実は、生徒を解きほぐし、それを整理しているともいえるのです。

 このホームページでは、作品の解きほぐし方の実践と、そこから見える生徒のこだわりと、その解きほぐし方についての実践についても載せていきたいと思っています。

 教科書には、多くのヒミツがあります。それぞれが、生徒の関心を集め、その解き明かしが授業の喜びになり、次の教材に向かうモチベーションにつながります。実際、ヒミツのない教材(作品)はなく、それを見つけることが教材研究の一歩だといえます。

 概略だけを記しましたので、わかりづらかったとは思いますが、今後の章では、私の授業実践をあげ、できるだけ具体的に、教材のヒミツにどうアプローチしたのか、どのような補助線を引いたのか、どう解きほぐしたのか、ということについて詳細に記していきます。皆様方の教室で少しでも役立てていただけることを願っています。

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