第一章 詩2 「二十億光年の孤独」 谷川俊太郎
③ 補助線を引く・・・実存の実感「近代知を乗り越える」(茂木健一郎「ちくま評論選」)の授業の時、世界のあり様と人間の実存の全体性を引き受けることは理性ではむずかしいが、感情においては可能である、という最も肝心な部分の説明にはてこずりました。非常に感動的な話なんですが、どうも生徒には伝わりにくいようです。 簡単に言えば、宇宙の大きさを含めて世界とは何か、そこで生きる自分とは何か、という疑問の答えは、理性では把握できないが、感情においては可能である。満天の星を見上げ、広大な宇宙と卑小な自らのコントラストを感じる中で、宇宙の大きさも卑小な自分もすぽっと実感できるというものです。 しかし、これを理解するためには、まず生徒が、その畏怖感なり、孤独感を実感できていなければなりません。それがこの詩の実感とリンクしているのです。ただ、この絶望的な実感を、茂木氏は、世界認識として前向きに捉え、詩人は、仲間を求める心情の契機として捉えている違いがあるだけです。この無限(宇宙)を前にして、畏怖し、孤独や不安を感じるという実存に根ざした実感は、この他の詩や小説、評論理解のためには必須のものなのです。 このように、一つの教材で得たものを、それだけにとどめず、普遍性をもった感覚というところまで掘り下げることで、他の教材への補助線となることが多くあります。教材研究の際には心がけておいていいのではないでしょうか。
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