第一章 詩1 「木」 田村隆一
この詩の最も大きいヒミツは、第一連の「木は黙っているから好きだ」が、最後に、「木/ぼくはきみのことが大好きだ」に変わったことです。この「好き」と「大好き」は似ているようで、実は大きな違いがあります。 ① 心情の変化を見る詩に限らず、小説でも心情の変化に着目して授業を進めることがあります。 冒頭では明るい心情(喜びや、楽しみ等)であったが、それが、暗い心情(悲しみや、苦悩等)に変化しているという具合です。そもそも、明と暗という分け方に問題はありますが、切り口として有効だということです。そして、その変化は何に起因するのかを考えていくのです。しかし、その変化が簡単に見えてこない場合も多くあります。むしろ、それが普通なのかもしれません。その場合は、「拳を固く握りしめた」や「空が抜けるように青かった」等の表現に注目し、そこに何かしらの心情の変化を見て取ることもあります。 この詩の変化について、生徒の多くは「好きだ」から「大好きだ」の変化を、明(+)から、より明(++)へという変化だととらえています。でも、これじゃヒミツでも何でもありませんね。字面だけを見れば確かにそうなるのでしょうが、どうなのでしょうか。 木は黙っているから好きだ すべて「~でないから好きだ」という消極的な評価です。もともと木は話したり、わめき散らしたりしませんから、この表現の裏には、愛とか正義とかをわめき散らす人間がいることが見えてきます。言い換えれば「人間のようでないから木が好きだ」、つまり、「人間は嫌いだ」という心情に行き着きます。そうなると、心情は、暗(マイナス)になるわけです。 この詩は、暗から明に大きく変化しているのです。次に、その変化の原因を見ていくわけですが、まだ、この人間嫌いの中身がピンときません。そこで、「補助線」です。
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