浪速のスーパーティーチャー守本の授業実践例

第二章 小説

2 『棒』 安部公房

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③ 補助線を引く――私たちの物語(因果律)

 この授業と連続して本田和子の『異文化としての子ども』を授業で取り上げました。そこでは寺山修司の発言を引用しながら、理由無き殺人について人々が厳しく反発するのは、自分たちの持つ通俗的な因果律が解体されることに、人々が不安を抱くためである、と指摘しています。そして、こう指摘しています。

 私どもは、事象を「物語」として、つまり因果関係的に一貫性を持った意味のまとまりにおいて把握することに、あまりにも慣れすぎている。というより、それ以外には事象を受けとめるすべを知らないのだ。

 これは、子ども特有の世界を自分たちの因果律(物語)で理解しようとして、まったく理解できない大人について指摘したものですが、自分たちの因果律で説明できない世界が身近にあるということが生徒には驚きです。そしてそのことは、この小説にもあてはまります。主人公は自分の状況を何とか理解しようとするのですが、それはかないません。しかし、それは当然のことですね。人間の世界とはまるで別の論理の世界が存在して自分を裁いているのですから。

 この小説を読み終わった時、生徒が持つ不気味さ、後味の悪さは、ここに由来するのでしょう。しかし、この後味の悪さこそ、この小説の魅力なのです。

 人間が中心だと思っていたこの世界が実は「裁かれる側」で、しかも「裁く側」の世界は人間が思うような「正義」の世界ではないという恐怖。自分たちの価値観・物語が根本的に覆された驚きと恐怖がここにあります。また、異なる価値観の出現によって、これまで絶対視していた自分たちの価値観が相対化されると同時に、「平凡」「誠実」に価値をおいて生きる人間のむなしさ・悲しさが浮き彫りにされてきます。

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