第二章 小説
第二章 小説2 『棒』 安部公房
屋上から景色を見ていた主人公が落下する最中に「棒」に変身します。主人公はなぜ自分が「棒」になったかを考え続けています。そこからこの小説は始まっています。最初のヒミツは、この「なぜ棒になった?」です。そしてもう一つのヒミツは、「棒」になった主人公を「裁く側の世界」の存在です。人間を裁く側の世界といえば神仏の世界が想起できるのでしょうが、ここに描かれている「裁く側の世界」は、それとは大きくことなります。この「裁く側の世界とは?」というヒミツを解き明かす中で、生徒はこれまで読んだことのない小説世界に触れ、いろいろな発見をします。小説を読む一つの醍醐味がこの作品にはあります。 ① 心情の変化を見る――原因探し冒頭の、主人公が屋上から落ちた時の状況を自分で思い返している場面が非常に印象的です。 むろん、少々、後ろめたいたのしみかもしれない。だからといって、ことさら、問題にするほどのことだろうか。私はただぼんやりしていただけである。すくなくも、後になって思い出す必要にせまられるようなことは、なにも考えていなかったはずだ。 主人公は、たまたまデパートの屋上からの景色に心を奪われて、子どもの面倒を見なかったというだけなのに、なぜこんな不幸に襲われなければならないのか、自分が「棒」になったのには自分に非や罪があるはずだ、自分は重大な何かをしでかしたのかもしれない、と思い返しているのですが、その原因は思い当たりません。ここにも、例の勧善懲悪風の因果関係で自分に生起したことを理解しようとする姿勢が見られます。だからこそ、そういう理由もなくこのような状況に追いやられた理不尽さに途方に暮れているのです。 しかし、主人公の悲劇はこれに止まりません。悲劇をさらに際だたせる工夫がこの小説には用意されているのです。
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