ちくまの教科書 > 国語通信 > 連載 > 「高ため」を黙読する授業第四回(4/6)

「高ため」を黙読する授業

(この連載は、機関誌『国語通信』1996年春号~1999年春号に掲載された文章を転載したものです。)
第1回 わたしのアンソロジー
第2回 密室をつくる
第3回 逆習シール
第4回 テキストを編集する
第5回 モーツァルトへの手紙
第6回 教室に風を入れる
服部左右一(はっとり・さういち)
愛知県立小牧高等学校教諭
元愛知県立小牧工業高等学校教諭
『高校生のための文章読本』編者
筑摩書房教科書編集委員
長年「表現」分野の指導メソッド開発に携わる。

第4回 テキストを編集する
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4 何が読まれるか

 期末考査の試験監督に行くと、そのクラスは変だった。机の上にはハサミ・ノリ・定規・本・文章のコピーなどが並べられている。通常は筆記用具と下敷きしか使用できないことになっているので、カンニングをするぞといわんばかりの挑発的な光景に見えた。それも一人や二人ではなく、大半がそうだった。そして、かれらの表情からはいつもの試験の時には感じられないエネルギーの爆発が予感されるのだった。

 試験用紙を配る段になって出題者から試験監督への注意書きを見ると、受験する生徒たちは何を持ち込んでもいいとの指示が出ている。「ノリ・ハサミ、その他すべての持ち込み可です。提出は答案用紙とは限りませんのでよろしくお願いします。」となっている。出題者はMさんで、問題は次のようなものだった。

 「きみが選んだことばによる表現を示し、①題、②作者紹介、③リード、④その中で特に印象の強い部分の提示、⑤提示部への感想などを自由にアレンジして提出しなさい。(別紙で用意済みの人は、そちらを提出する。)

 生徒たちが解答を開始した。と言っても、大半はハサミやノリを使っての切り張り作業を開始したのだが、教室内の雰囲気がいつもとは違っていた。試験を受けさせられるという受身的なところが影を潜めている。生き生きとした積極性すら感じられる。ちょっとした異変だ。それが監督をしているこちらにまで伝わってくる。それぞれが自分の好きなものを発見して、答案用紙にそれをぶつけたいという熱い思いだった。自分という未知のエネルギーの燃焼が教室のあちこちで静かに進行していくように思えた。

 あとでその話をMさんにした。授業ではMさんも「高ため」を黙読させてからノートを提出させているが、今回の試験は自分で「ことばによる表現」を選んできて、答案にそれを提示するよう生徒に予告していたということだった。受験した生徒たちがハサミやノリを用意していた理由がよく分かったのだった。

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