『英語のハノン 中級』のドリル練習をする際、そのスピードについていくのが大変、と感じていらっしゃる方は多いと思います。とくに男性ナレーターであるジャック・マルジさん担当のドリルは、目をつぶり、眉間にしわをよせながら、苦行に耐えるように取り組んでいる、という方もいるのではと想像します。そして口を速く動かそうと必死で練習をしてもなかなかうまくいかなかったのに、ふっと力を抜くと急に言えるようになり、いったん言えるようになるとあとはなぜか問題なくずっとスラスラ言えるようになった。このような経験をされたことはないでしょうか。

　このコラムの第1回「リズムをしっかりと、ふたたび」で横山先生が解説されていたように、日本語はsyllable-timed（シラブル・タイムド）の言語で、基本的にはすべての音節を等しい長さで発音します。たとえば、3音節である「すもも」と言うときは、2音節の「もも」と言うときの1.5倍の時間がかかる、ということです。それに対し、英語はstress-timed（ストレス・タイムド）の言語で、音節ではなくストレス（アクセント）で拍をとります。

　この2文を読むのにかかる時間はほぼ同じです。Cats eat fish.の3拍のストレスのまま、下の文も読みます。●のついている「cats」「eat」「fish」は波の山、それ以外の語は波の谷に当たるイメージです。このように英語は「大きな波」を感じながら話す言語です。そういう意味では、英語は「速い」ようでも、大きなリズムを捉えると「ゆっくり、ゆったり」しているとも言えるのです。この文を日本語のsyllable-timedで読むと「ザキャッツウィルイートザフィツシュ」と、波がなく平坦なままひとつひとつの音節を刻むような発音になります。ここまで極端ではなくても、日本語のsyllable-timedの「くせ」を引きずっていると、英語を話すとき、とても口が忙しくなり、まるで早口言葉のような英語になってしまうのです。

　『英語のハノン』のドリル練習を行う際も、syllable-timedのまま、まるでドラムロールの如く細かく刻むように英語を話していてはうまくいきません。大きな波、その山と谷をまず感じ、その波にゆったり体をゆだねるような気持ちで練習してみてください。

　ひとつ具体例を挙げておきます。『英語のハノン 中級』の最初のドリル（Unit1.1）、1）のひとつめの矢印の文を音声で聞いてみてください。

　●がついている単語を山とする大きな波を感じられると思います。波の山の部分を強調しつつ、それ以外はあっさり流して言うようにしましょう。とたんに言いやすくなると思います（もちろん、最初からそのように言えている、という方もいらっしゃると思います）。

　いったんsyllable-timedで学んでしまった英語をのちにstress-timedに矯正する、というのは大変ですが、ひとつひとつ練習すれば大丈夫です。しかしやはり、本来は学びはじめの段階からstress-timedの英語で学習するのが理想的なあり方だと思います。英語学習のスタートの時点からstress-timedの音声で練習をし、かつ文法も理解し使えるようになる、そんなしくみづくりに私たちは取り組んでいます。