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第5回 モーツァルトへの手紙 |
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『文章読本』の最初は、吉行淳之介「蝿」からスタートした。大人と子供の端境期にいる女子高校生がボーイフレンドの学生服の背中にびっしりと止まった蝿のイメージを見るとの設定の、やや特異な、三ページの超短篇小説である。
折しも四月からNHKの朝の連続テレビ小説で「あぐり」が始まった。この番組は吉行淳之介の母・吉行あぐりさんの自伝をもとにしているので、授業で「蝿」を読もうとしたとき、運よくテレビでは淳之介が生まれた前後の様子を放映していた。「あぐり」を見ている人はいますかと聞くと、恥ずかしそうに一人の女子生徒が手を挙げた。「いま淳之介は生まれたばかりの赤ん坊であぐりさんに抱かれていますね。いま画面でおむつをした子が何十年後かにこの小説をかくようになるんだ」というふうに授業が始まった。
同じ年ごろだからすごくよく分かるような気がする。漂いはじめるとか、熱いものって表現はいい。恋したときのあの変な苦しいようなうれしいような。自分が変になる。鏡の前で自分をみつめたりする。裸にならないけど、でも自分ってものをドキドキしながら見たくなる。(H)
想像するだけでも気持ち悪い。でも一番印象が強烈だった。少年は背中に蝿がいっぱいついていても気がつかないほど鈍感なのか、それとも少女の幻覚だったのか。どちらかというと少女の幻覚であってほしい。(K)
少年は笑ってて、彼女の心の変化にちっとも気づいてないところが、なんだかかわいそう。さみしい終わりかた。でも、この感じは好き。(T)
生徒のノートを見て編集(生徒のノートのコピーをのりとハサミを使ってプリントに仕立てあげることを編集と呼ぶことにした)するうちにノートづくりには罫線のないものの方が適していると思うようになった。罫線がない分だけ生徒は自分の空間をレイアウトする必要に迫られるようだ。そこで、ノートの代わりに無地の用紙に記入させることにし、天地左右に二センチほどの余白を残した方形の枠だけを書いたB5版の用紙を時間ごとに配り、あとで回収した。集めた用紙からは既成の枠からはみ出しそうになりながら自分を表現しようとした痕跡が伝わってくる。 |
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