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第1回 “恐るべき画一化”―定番教材はなぜ消えない |
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漱石作品の収録状況
現在の中学・高校の国語教科書に相当する戦前の「中等学校国語科教科書」に漱石教材がどのぐらい採録されていたかについては、橋本暢夫さんが『中等学校国語科教材史研究』(2002年7月・渓水社)という著作で詳しい調査結果を報告しています。調査対象は国立教育研究所附属図書館に収蔵されている「中学校用読本」と「女学校用読本」です。
橋本暢夫さんによると、夏目漱石が教科書に初めて登場したのは、1906(明治39)年に刊行された『再訂 女子国語読本』の巻五に、「吾輩は猫である」の一節が「鼠を窺う」の見出しで採録されたときのことだそうです。『吾輩は猫である』の上編刊行が1905(明治38)年であることを考えると、きわめて早い段階で教材化されていたことがわかります。
また、漱石教材を採録した教科書は、「ほぼ三○五種、八七八冊」にものぼり、「延九八二」という高い頻度で採録されているとのことです。そのうち小説が「七八%の七六八回」を占めているのですが、「吾輩は猫である」が「延一九五回」、「草枕」が「延四○七回」だと言います。かなりたくさん採録されていることがわかります。
小説では他に、「坊っちゃん」「倫敦塔」「カーライル博物館」「趣味の遺伝」「二百十日」「虞美人草」「坑夫」「夢十夜」などが採録されていますし、「文鳥」「永日小品」「思い出す事など」「子規の絵」「ケーベル先生」「硝子戸の中」など、橋本さんの分類によると「感想・随筆教材」にあたるものも多く教材化されています。それだけではなく、「京に着ける夕」「満韓ところどころ」などの「紀行文教材」、「文学論」「文学評論」などの「評論教材」、正岡子規・中川芳太郎・芥川龍之介・久米正雄宛などの「書簡教材」、「日記教材」、「俳句教材」など、バラエティに富んだ教材が採録されています。およそ漱石の文章は、ありとあらゆるものが教材化されている感じです。
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