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第2回 “生き残りの罪障感”―定番教材の法則 |
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3.定番教材「羅生門」「舞姫」の起源
戦前の国語教科書に「羅生門」は皆無
戦前の教科書にはまったく採録されていなかった夏目漱石の「こころ」は、敗戦後しばらく経つとにわかに定番教材としての地位を確立し、現在にいたるまで読み継がれています。これはとても不思議な現象です。
ところがこういう不思議な現象は、夏目漱石の「こころ」だけのことではありません。
たとえば、芥川龍之介の場合を見てみましょう。
「羅生門」を発表したのは1915(大正4)年のことです。そして漱石に激賞された文壇デビュー作「鼻」の発表は翌年の1916(大正5)年のことなのですが、早くも1921(大正10)年には教科書に登場しています。『国文新読本』(藤村作、島津久基編・至文堂)や『女子新読本』(久松潜一編・至文堂)に「蛙」「沼地」「西郷隆盛」などが採録されているのです。その後も「鼻」「トロッコ」「杜子春」などのおなじみの作品が、中学校(旧制)や高等女学校の国語の教科書に多数採録されています。橋本暢夫さんの調査によれば、最も多く採録されたのは、「戯作三昧」で延べ77回です。ついで「蜘蛛の糸」の76回、「蜜柑」60回、「手巾」32回となっています。
芥川龍之介は当時としては最新の作家だったはずですが、意外と多くの作品が採録されていることがわかります。国語読本の世界でも相当な人気作家だったと言っていいでしょう。ところが不思議なことに、文壇デビュー作であり、現在は定番教材になっている「羅生門」を採録した教科書はまったく見当たらないのです。
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