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第2回 “生き残りの罪障感”―定番教材の法則 |
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敗戦後は「羅生門」が圧倒的な採録数
横浜の富士見丘中学・高等学校の教員をしている阿武泉さんが、昭和25年~平成14年までの教科書を調査してまとめた「戦後高等学校国語教科書データベース」(2004.6.1)によれば、敗戦後の高等学校の教科書での「羅生門」の採録数は、延べ134回にも及びます。2位の「鼻」が延べ40回ですから,圧倒的な採録数であると言っていいでしょう。
『現代文新抄 全』 清水書院 1956年発行〈左〉
『日本現代文学選』 数研出版 1956年発行〈右〉
『高等国語 総合2』 明治書院 1956年発行
また、「羅生門」が最初に採録されたのは、1956(昭和31)年のことです。この年に発行された明治書院の『高等国語 総合2』、数研出版の『日本現代文学選』、有朋堂の『国文現代編』の3冊が足並みを揃えて「羅生門」を載せています。
興味深いのは、戦前の定番教材「蜘蛛の糸」と敗戦後の定番教材「羅生門」が、正反対の行動原理を読者に要請しているように見えることです。
図式化すれば、自分だけが助かろうとするエゴイズムを否定しているのが「蜘蛛の糸」であり、他者を踏み台にしてでも生き延びようとするエゴイズムを容認するのが「羅生門」であるというわけです。
この2つの作品の相違は、敗戦による価値観の転換を反映したものであると考えるのが、わかりやすい説明です。あまりに安易な説明ですが、そんなことを考えたくなるぐらい、見事なまでに戦争をはさんで採録状況が一変しているのです。
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